インストール型ソフトウェアの勝っている点、Freee/マネーフォワードの勝っている点についてまとめてみたいと思います。
クラウド型会計システムであるFreee/マネーフォワードは素晴らしい会計システムです。ただ、だからといって今でも多くは弥生会計に代表されるインストール型の会計システムを使っています。ここでは、インストール型会計システムの勝っている点、Freee/マネーフォワードの勝っている点及び実はどちらともいえないのではと思う点を3つに分けて解説していきたいと思います。
操作性
操作性については、やはりインストール型である弥生会計が勝っていると思います。Freeeやマネーフォワードを使う場合、試算表を見るために開いたり、何かおかしいと思って総勘定元帳を開いて確認するにしても、画面の切り替わりにどうしても時間がかかります。以前に比べるとよくなってきているように感じますが、1回のページの切り替わりに係る時間が1秒だったとしても、積み重なる時間もありますが、なにより大きなストレスにつながります。
また、入力にしても、弥生会計であれば、慣れることによって、仕訳辞書、勘定科目コード等を用いて早い入力が可能になりますが、Freee/マネーフォワードでは、画面の切り替わりの時間もあり、そのスピードにはなれません。Freeeやマネーフォワードは、あとで説明する経理の自動化を行うことで、高速表示や高速入力自体が必要なくなるという方向性です。差は小さくなることはあると思いますが、どうしても残ってしまう部分と思います。
安い(オンラインバンキング前提でない、複数事業所でも同料金)
コスト的には使い方次第ではありますが弥生会計が同じか安いです。
①ここ最近は消費税の増税などもあり、毎年の保守契約によるバージョンアップが必要でしたが、少し前まではバージョンアップしなくても数年間は普通に使えていました。バージョンアップの保守料金を弥生会計の年額と考えると弥生会計もFreee/マネーフォワードもあまり変わりませんが、例えば弥生会計の場合、消費税が変わらない前提であれば同じものを数年間使い続けることが可能です。
ですので、Freee/マネーフォワードであれば4年間で総額20万円だったものが、弥生会計だと4年間で総額5万円みたいな使い方をすることが可能です。ただ、このやり方でも、以前はあまり欠点がなかったのですが、あとで説明する経理の自動化におけるスマート取引取込が使えないことが欠点にはなってくるかと思います。
②もう一つは、弥生会計はオンラインバンキングが必ずしも前提ではないことです。Freee/マネーフォワードの場合、操作性の問題もありオンラインバンキングを基本的には前提とせざるを得ません。個人であればオンラインバンキングは無料で使えますが、法人の場合には、一銀行当たり年間数万円を覚悟しないといけません。
新しい会社であれば、オンラインバンキングを前提に事業を行っていると思いますのでよいのですが、古くからある会社で取引先等の都合で口座がいくつにも分かれてしまっている場合には、すべてをインターネットバンキングにするとそれなりのコストになります。入力する手間はかかりますが、弥生会計を使ってオンラインバンキングを前提とせずに入力するという選択肢があります。このような使い方をする場合、弥生会計の方がコスト的には安くなります。
③ もう一つは複数会社の場合です。Freee/マネーフォワードは一会社一契約が前提なのに対して、弥生会計は一人使用一契約です。一人の方がグループ会社を含めていくつかの事業所を経理するような場合であっても、弥生会計であれば一契約で可能です。
例えば、4つの会社を一人の方が記帳している場合には、弥生会計であれば5万円で済むところ、Freee/マネーフォワードだと20万円かかるみたいなことがあり得ます。”
簿記の勉強になるのでその後のキャリアに生かせる
以前は経理のスキルアップというと仕訳の入力を前提として、簿記や会計、税務を学ぶというのが一般的でした。ただ、Freee/マネーフォワードの動きを見ていると、どちらかというスキルアップの方向性が、Freee/マネーフォワードの使い方を学ぶという方向性になっているように思えます。
以前から経理業務を行っている方がFreee/マネーフォワードを使うという分にはよいと思うのですが、最初からFreee/マネーフォワードを使い始めた場合、簿記等をあまり学習せずに使い方に習熟している気もします。もちろん、Freee/マネーフォワードしか今後は使っていかないという方はいいかもしれませんが、会計・簿記等のスキルアップにつながっていくのかは少し心配しています。
経理の自動化
経理の自動化という意味では、Freee/マネーフォワードの方が勝っていると感じます。よく、Freee/マネーフォワードの連携数について言われることがあります。また、弥生会計と弥生会計オンライン(弥生会計のクラウド版)で比べても、弥生会計オンラインの方が連携先の数が多いようなので、インストール型ゆえの難しさはあるようです。
ただ、弥生会計でも「法人口座2,100件以上を含む、全国3,600件以上(2020年7月現在)」に連携しています。また、弥生会計/Freee/マネーフォワードのどれであっても、うまく連携ができないクレジットカードがありますので、正直、差は感じません。
ただ、やはり、もともとの設計思想からくる違いなのか、Freee/マネーフォワードは否応なしに、まず銀行明細データやクレジットカードデータが取り込まれ、取り込まれたデータを処理しないのはマイナスで、処理することで0に戻る、というような見え方なのに対して、弥生会計の場合は、処理していない状態が0ですが、処理することでプラス1になる、というような見え方に見えます。
半分当然のように自動化処理をさせます。それ以外でも、UI/UXの点では、Freee/マネーフォワードが勝っているので、経理の自動化という意味では、Freee/マネーフォワードが勝っていると感じます。
拡張性(請求書発行、経費精算、入金管理、支払管理、外部サービス、拡大した場合等)
拡張性もFreee/マネーフォワードが勝っている点です。マネーフォワードは、①会計、②請求書、③経費、④給与、⑤勤怠、⑥マイナンバーの機能があります。Freeeは、①会計(会計、請求書、経費)、②人事労務(給与、勤怠、労務)という感じで分類は違いますが、基本的には同じと考えてよいでしょう。
弥生会計もレシート取引込みアプリを用意したり、Misocaという請求書発行サービス、弥生の給与明細オンライン、弥生販売、弥生給与等でカバーはしていますが、あくまで別々のサービスという位置づけです。
給与計算、勤怠管理、経費精算等、独立したサービスでFreee/マネーフォワードよりもよいものはあると思いますが、何百人、何千人もいるような大企業は別ですが、それほど人数が多くなければ、それなりのクオリティのものを、統一感を持って導入できた方が、いろいろ都合がよいというところもあると思います。
弥生会計もスマート取引取込(銀行明細やクレジットカードの取得等をクラウドで行う仕組み)を導入したり、Misocaという請求書発行サービスを用意したり、インストール型からクラウド要素を取り入れて、反対側の方向からFreee/マネーフォワードと同じようなゴールを目指していると感じていますが、勢いという意味ではやはり、Freee/マネーフォワードが勝る印象です。
複数拠点での使用に移管しやすい
複数拠点で経理を行う必要が出てきた場合には、Freee/マネーフォワードが移行しやすいと思います。
インストール型会計ソフトにおいても、弥生会計は複数拠点で使うことを想定していないソフトウェアで、複数拠点で使うことを前提としたソフトウェアは、PCA会計、勘定奉行、スマイルといった少しグレードが上のソフトウェアになりますので、弥生会計と比べるのは少しかわいそうかもしれません。
ただ、複数拠点ということに関しては、当初単一拠点でFreee/マネーフォワードと使っていた会社が複数拠点での使用に対応していくというケースは、同じインターフェースで行えばいいので、今後増えていくものと予想しています。
Macで使える
Macが使えるというのも、Freee/マネーフォワードが勝っている点です。弥生会計は基本的にはMacに対応しておらず、Macを使って経理をしたいという場合には、Freee/マネーフォワードになるでしょう。
新しいものを導入するのが好き
新しいものを導入するのが好きであればFreee/マネーフォワードを導入すべきでしょう。先ほども書きましたが、自動で経理を使えば、下のインストール型の方が向いている法人であっても、経理の手間を同じくらいまで軽減することは可能ですので、
以下は、実はそれほど差がないのではないかと考える点です。
いつでもどこでも使える(スマホ、タブレット)
クラウドだからいつでもどこでも使えるということはよく言います。ご指摘の通りではあるのですが、弥生会計も保守契約に入っていれば(Freee/マネーフォワードと同じように毎年お金を払っていれば)弥生クラウドというデータ共有サービスが使えて、そこにデータを保存しておくことにより、弥生会計をインストールしているパソコンであればどこからでも使うことができます。
マネーフォワードは「iPhone、Androidなどのスマートフォンでも場面に応じて活用できるマルチデバイス対応」と書いていますが、会計は利益を生むものではなく、いつでもどこでもスマホでも経理状況を知りたいというような会社が業績が上がるとは思えません。
我々が会計チェックや各種相談に乗るために数か月に一回会社に伺ってお話をするケースもあり、その日は一日トップも含めて対応していただけるのですが、おそらくトップの方はその日は財務経理のことを考える日と決めて対応していただいているものと思います。正直、いつでもどこでも使えるというのは、必ずしもメリットというわけではないものと思います。
経営状況の見える化
「経営状況を見える化 売上利益の詳細分析など、見たいと思った瞬間に いつでも数字を確認できます。」Freeeはこんなことを売り文句にしています。
ただ、「経営状況を見える化」することと「バックオフィス業務を効率化すること」は残念ながらトレードオフです。例えば、会計ソフトを使って、毎日、「経営状況を見える化」するためには、誰かが、毎日、会計ソフトを触って、「経理業務を行うこと」になります。
また、「バックオフィスの効率化」は、ある程度割り切った形でまとめてデータを取り込むこととほぼ同意義ですが、経営状況を見たいというトップが見たい情報というのは、売上がいくらだったというような単純な情報ではなく、もう少し細かい情報ですので、細かい情報を会計ソフトに入れていく必要があります。会計ソフトに細かい情報を取り込めば取り込むほど、データは重くなり、「バックオフィスの効率化」からは遠ざかります。
弥生会計にしても、Freee/マネーフォワードにしても、あくまで集計目的のものと割り切り、細かい経営情報の見える化については、販売管理システムやBIツール等で行うべきものと考えています。逆に、そこまで細かいものを要求していない場合には、弥生会計でも、Freee/マネーフォワードでも差はないと思っています。
法令改正やバージョンアップへの対応
「無料でアップデート 法令改正や消費税の増税への対応や日々のサービス改善にも無料で素早くアップデート対応。従来のパッケージ型の会計ソフトと異なり、すべて無料で最新機能に更新します。」マネーフォワードの6つのメリットに記載がある一つです。
そもそも、マネーフォワードも無料でアップデートしているわけではなく、毎月の使用料に含まれているというのが正しい表記だと思います。弥生会計であっても保守契約に入っていれば、(無料で?)最新機能に更新します。弥生会計は、料金を払わずにアップデートしないことが認められているという言い方もできるので、そうとらえると弥生会計の勝っている点かもしれません。
給与勤怠
ある一定規模以上の会社になると経理と給与勤怠は全く別の部門で管理されます。また、仮に小さい会社で経理と給与を同じ人がやっていたとしても、必ずしも同じブランドのサービスを使った方がいいというものでもありません。
あまり細かく分かれてしまうのは得策ではありませんが、会計系、人事系で別れるのであればそれほど問題ないものと思います。ですので、Freee/マネーフォワードで一緒にやることのメリットは当然ありますが、Freee/マネーフォワード/弥生以外にも優れたサービスがあることを考えれば、そこは分けて考えてもいいと考えています。
ここまでいろいろと書いてきましたが、インストール型会計ソフトウェアがよいのか、Freee/マネーフォワードが良いのかは会社の置かれた状況によると考えています。ですので、こういった会社はFreee/マネーフォワードが向いている、こういった会社はインストール型会計ソフトが向いているということを書いていきたいと思います。
新規設立法人/これから経理を立ち上げる法人
新規設立法人やこれから経理業務を立ち上げる法人については、Freee/マネーフォワードがよいと思います。やはりこれから伸びるのはこちらでしょうし、機能的にもよくなると思います。
操作性の問題はありますが、仮にFreee/マネーフォワードにあまり向いていないタイプの会社だったとしても業務フローをうまく考えることによって、弥生会計を使った場合と比べても遜色のない形には業務を効率化できると思います。
簿記が分かる人がいなくても何とかなるようにしたい法人
すべてがオンラインバンキング登録している法人
すべての銀行についてオンラインバンキングを使っている会社は経理の自動化機能を使いやすいです。Freee/マネーフォワードが向いていると思います。
成長企業である/成長したい企業である場合
成長している企業の場合、もしくは成長したい企業の場合は、Freee/マネーフォワードがいいと思います。Freee/マネーフォワードは成長企業で、自分たちが欲しい機能を追加してきています。規模において必要な機能を追加できたり、人数が増えることに対応できるのも、Freee/マネーフォワードの魅力です。
MacでもOKにしたい
Macでも処理ができるようにするためにはFreee/マネーフォワード一択です。
新しいもの好きな法人
新しいものを導入するのが好きな法人もFreee/マネーフォワードが向いています。下に述べるインストール型が向いている法人であっても、自動で経理の設定を細かく行うことによって、経理の手間は同じ程度まで削減することは可能になりますので、そのような場合は迷わずFreee/マネーフォワードを選択してください。
とにかく会計ソフト代は安く済ませたい
とにかく会計ソフトを安く済ませたい場合には弥生会計が向いています。弥生会計には、「バージョンアップしないという選択肢」も残されていますので、数年単位で言うとそれなりの違いを出すことができます。
銀行口座がたくさんありオンラインバンキングにすべてするとコストがかかる
会計ソフトに関係なく、銀行口座の数を減らすことは業務の効率化に不可欠です。ただ、会計事務所側でも銀行口座が一つ増えたら○○円増加です、みたいなことは現実的には難しく、会社側でも痛みがないためか、銀行口座の削減をお願いしても、取引先の都合で減らせなかったり、あまり対応していただけないケースもあります。
このように銀行口座の数を減らすことが難しく、オンラインバンクにすることも難しい会社については、弥生会計が向いていると思います。
長期安定企業である
長期安定企業は、弥生会計が向いているかもしれません。Freee/マネーフォワードは成長企業ですので、サービス開発におけるスピード感は素晴らしいものがあります。ですが、成長企業ゆえかもしれませんが、びっくりするような料金改定を行うことがあります。おそらく、成長企業で新規のお客様もどんどん入ってくるため、過去のお客様がある程度いなくなっても今後を考えるとプラスになるという判断なのだと思います。
弥生会計はどちらかというと既存のお客様を守る立場になりますので、あまりそういう無茶なことはしません。また、安定企業においてはそこまでのスピード感が求められるものではなく、安定企業である弥生会計のスピード感でも程よいということがあります。インストール型ソフトウェアも、Freee/マネーフォワードのスピード感には劣るかもしれませんが、十分に進化しています。
複数事業所を管理しており、現状それほど困っていない
弥生会計は、一担当者であれば一契約です。例えばグループ会社を管理していて、1社はしっかり動いているが、残りはあまり動いていないような場合、1社はスマート取引取込を使って経理効率化を行い、残りを同じ弥生会計で処理することでコストを抑えることができます。
輸出・輸入・軽減税率取引などが多く修正が多く発生する
輸出・輸入・軽減税率の取引が多い場合には、経理の自動化の設定をしても、消費税の関係でどうしても内容を確認し、修正しなければいけない取引が出てきます。直接入力していく場合には、弥生会計の操作性がやはり生きてきますので、弥生会計が向いています。
クラウドのセキュリティが信頼できない
だいぶ少なくなってきたとは思いますが、インターネットが信頼できない、クラウドが信頼できないという方もいらっしゃいます。弥生会計はインターネットにつながなくても動きますので、インストール型になると思います。
しっかり簿記を勉強したい/させたい
勉強した簿記を生かしたい、生かさせたい、という場合は弥生会計が向いていると思います。Freee/マネーフォワードの操作方法という方向にいかずに、習ったものがそのままの形で表現されているからです。Freee/マネーフォワード/弥生会計のいずれを使いにしても、簿記会計を学習するということは忘れないでいただきたいです。